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孫子

第12 火攻篇

 およそ執行には5通りがある。第1は差押,第2は担保執行,第3は仮執行,第4は保全執行,第5は財産開示である。執行をするには条件が必要で,その条件は必ず事前に十分に整える。執行をするには適当な時があり,執行の効果をあげるには適当な日がある。時というのは,そこに目的物がある時である。日というのは月末である。およそ月末は,相手方が様々な支払いをする時期である。ゆえに,この時期に執行をすると効果がある。

 およそ執行には,必ず5通りの執行の変化に従って,これに呼応して相手方と交渉する。(第1は)執行が成功した時に,すばやくこれに呼応して相手方と交渉する。(第2に)執行が成功したのに,相手方が動揺しない場合は,しばらく待つことにして,すぐに交渉を持ち掛けてはならず,その執行に乗じて交渉してよければ交渉し,交渉すべきでなければやめる。(第3に)保全執行ができる場合は,仮執行や本執行ができる状態になるのを待たないで,適当な時をみて保全執行をする。(第4に)差押に成功したら,こちらが他に相手方の財産があることを把握していないことを知られることになるので,財産開示を求めない。(第5に)月初に支払いがあったときは,月末の執行はやめる。およそ相手方と争訟に出るには,かならずこうした5通りの執行の変化があることをわきまえ,法的知識を駆使してそれに対応した交渉を行うのである。

 執行を交渉の材料にするのは聡明な知恵によるが,訴訟を交渉の材料にするのは強大な説得力による。そして,執行を意識しない裁判だけでは,相手方をけん制することはできるが,奪取することはできない。

 そもそも裁判に出て勝訴しながら,その判決内容を実現できないのは不吉なことで,「費留」(無断に費用を使って裁判する)と名付けるのである。だから,聡明な相談者はよく考え,立派な弁護士はよく事実関係や相手方の財産状況を整理して,有利でなければ行動を起こさず,利益がなければ交渉せず,裁判をせざるを得ないような追い込まれた状況にならなければ訴えを提起しない。依頼人は,怒りに任せて争訟に出るべきではなく,弁護士も憤激に任せて訴えを提起するべきではない。有利な状況であれば行動を起こし,有利な情況でなければ争訟に出ないのである。怒りはじきに収まるし,憤激もじきにほぐれるものであるが,敗訴した事実は変えることができず,壊された人生は元には戻らない。だから,聡明な依頼人は,裁判に出ることを慎重にし,立派な弁護士はこれを戒める。これが人生を安泰にし,権利を保全するための方法である。

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