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孫子

第2 作戦篇

 およそ争訟に出るときは,依頼人から十分に話を聞いて,相手方と連絡をとってその主張にも耳を傾け,必要な証拠を取寄せ確保し,証人となりそうな関係者からも話を聞き,事案に応じて適切な法律論を考案し,相手方の財産を保全し,費用と時間をかけて十分な準備をするものである。争訟に時間をかけると,依頼人は疲弊し,関係者の鋭気がくじかれる。裁判にかけるとなれば,資金も尽きてなくなり,だからといって事件を放置しておけば依頼人の活動にも影響が出る。こうなると,その窮状に乗じて不逞の輩が依頼人に近づき,弁護士の事件処理に介入して滅茶苦茶にしてしまうこともある。ゆえに争訟では,拙速はあり得ても,長引いてうまくいくというのはない。争訟が長引いて満足する依頼人はいない。ゆえに,争訟に出ることの弊害を知り尽くしていない弁護士は,争訟に出て得られる利益を知り尽くすことはできない。

 争訟のうまい弁護士は,交渉は2度行わず,依頼人に資料を求めるのも3度は行わず,主張は依頼人の言い分通りにするけれども,証拠は相手方に提出させる。ゆえに,証拠は足りる。証拠不足に陥るのは,主張するべき事実が多いからである。主張するべき事実が多ければ,集めるべき証拠も多くなり,迷惑をかける関係者が増えていく。単純な事実関係ならば,一つ一つの証拠の価値が高くなり,証拠の価値が高くなれば,その証拠が確保できていないと立証に苦労することになる。裁判では証拠が尽きて立証不十分となり,依頼人との打合せの必要が生じて時間と労力が消費され,鑑定や証人尋問の準備で依頼人が負担するべき実費がかさみ,依頼人の財産は10のうち6まで減ることになる。それゆえ優秀な弁護士は,できるだけ証拠は相手方に出させるようにする。相手方の証拠1つを援用することは,味方の20の証拠を提出するのに相当し,相手方の主張1つを援用することは,味方の20の主張をするのに相当する。

 相手方の主張を否認するのは奮い立った気勢によるのであるが,相手方の主張や証拠を認めて援用するのは,当方の主張に根拠を与えるためである。だから,論戦で相手方から当方に有利な証拠を引き出せたときは,その弁護士に成果報酬を与えるべきである。これが論戦に勝って当方の主張を立証するということである。

 争訟は相手方に勝つことを第一とするが,長引くのは良くない。弁護士の良し悪しは,依頼人の人生を左右する。

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