1
争訟は,人生の大事である。己の生死と存亡をかけて行うものであるから,軽々しく考えてはならない。そこで,争訟に出るかどうか,5つの視点で,当方と相手方とのいずれが優れているか,よく検討するべきである。その5つとは,「道」であり,「天」であり,「地」であり,「将」であり,「法」である。「道」とは,身の回りの人間関係である。争訟となったときに,誰が,どれだけ協力してくれるかということである。「天」とは,争訟に出るタイミングである。「地」とは,争訟で勝つ難易,時間,利益である。「将」とは,担当する弁護士が智・信・仁・勇・厳を兼ね備えているかどうかである。「法」とは,規律をもって行動しているかどうかである。これら5つが理解できている弁護士は裁判に出れば勝ち,理解できない弁護士は負ける。ゆえに,この5つの検討を慎重に行い,次の7つを比較することで,争訟に出るかどうか決めるべきである。すなわち,当方と相手方とでどちらが良好な人間関係を得ているか,優秀な弁護士を探し出せるか,事実関係はいずれに有利であるか,規律に従って行動しているか,時間と資金に余裕はあるか,証拠関係は十分に集めているか,有利不利の判断をきちんとできているか,である。弁護士はこれらのことによって,訴えを提起せずして,勝敗を知るのである。
2
弁護士がこの通りに考えているならば,彼に依頼したならばきっと勝訴するであろうから,依頼をする。弁護士がこの通りに考えていないならば,彼に依頼したならばきっと敗訴するであろうから,依頼しない。この通りに考えて当方が有利なことが説明されたら,「勢」を利用して争訟の準備をする。「勢」とは,有利な状況にもとづいてその場に適した臨機応変の措置をとることである。
3
争訟ともなれば人道にもとることでもしなければならない。自信があっても自信がないように見せ,簡単な事実関係を難しい事実関係のように見せ,難しい事実関係を簡単な事実関係のように見せ,相手方が成果を求めてくるときは手持ちの証拠を開示させ,相手方の主張が混乱しているときはその間に既成事実を作り上げ,相手方に違法性がないときは論争せず,相手方の主張立証が十分なときは論点を変え,相手方が怒っているときは言質をとり,丁寧な態度のときは挑発し,余裕を見せているときは疲弊させ,良好な人間関係を維持しているときは分断させる。このようにして,機を見て相手方が意識していなかった事情を指摘し,相手方が持っていない証拠を見せるのである。これが弁護士が言うところの「勢」であって,争訟前に依頼人に説明することができない部分である。
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およそ裁判もしないで裁判で勝てると分かるのは,その勝ち目が多いからである。裁判もしないで裁判で負けると分かるのは,その勝ち目が少ないからである。勝ち目が多ければ勝訴し,勝ち目が少なければ敗訴するというだけのことである。勝ち目がまったくないという場合は言うまでもない。弁護士は,以上を観察して,勝訴敗訴を予測するのである。